みみなが

みみのながーいウサギがいました。
どれくらい長いのかというと、玄関から、廊下をつたって、トイレのまえをとおりすぎて、おふろのドアもとおりすぎて、南にむいた窓のところでようやくおわる、それくらい長いのです。
みみながウサギは、いっつもみみを引きずって、歩いたり、跳ねたりしていました。
からだはきれいな白色なのに、長いみみはいつもよごれていました。
でも、ずるずる引きずるみみを、みみながウサギは見ることができないので、気にしていませんでした。
あるとき、ともだちのクロウサギがいいました。
「きみのみみはいつも汚れているね」
みみながウサギは、びっくりしました。
ながーいみみを引きずっているせいで、失敗したことはなんどでもあります。
水の入ったコップをたおしたり、三輪車にふまれたり、雨の日なんてびしょぬれになります。
でも、汚れてる、なんておもいませんでした。
ふりかえっても、はしっこまでは見えないし、鏡のまえに立ってもみみのぜんぶは映りません。
それどころか、みみながウサギは、ながーいみみを気に入ってました。
だから、みみながウサギは、とってもかなしくなりました。
汚れてる、なんていわないでよ。
「きみなんて、もっとまっくろだよ!」
みみながウサギは、いいました。
クロウサギは、だけどちっともかなしくなさそうです。
それどころか、自慢気にいいます。
「ぼくの、黒い毛は、つやつやして、とってもきれいだろう?」
「そんなことないよ……

いじわるのひとつでもいってやりたいのですが、みみながウサギの声はしょんぼりとしぼみます。
「せっかくのながいみみ、もったいないなぁ」
そういうと、クロウサギは、自慢のシャンプーセットを持ってきて、ながーいみみを丁寧に洗ってくれました。
それから、やっぱり自慢のブラシとアクセサリーを持ってきて、ながーいみみを優しく梳いてくれました。
さいごに、ながーいみみを器用に結んで、おおきなハートのかたちにしてくれました。
「どうだい? こうしたほうが、すてきじゃないかい?」
姿見のまえに立ったみみながウサギは、自分のみみのぜんぶを、はじめていっぺんに見ることができました。
こんなにすてきなみみをもってること、知っていたのに、たいせつにしてなかった。
うれしくて、だけどすこしかなしくて、みみながウサギは目にたまったなみだを、手でぬぐいました。
みみながウサギは、ながーいみみが、もっとすきになりました。
クロウサギとも、もっとなかよしになりました。

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