こんばんは
電話の呼び出し音が聞こえてあたりを探しまわると、ベンチにスマホがあった。無人駅のホームに人の姿はなく、だれかの忘れ物だろうと判断した私は電話に出た。
「もしもし」
「もしもし、ああ、よかった、これ、わたしの電話なんです。そのまま持っておいてください。いまから行くんで」
一方的に言うだけ言って、電話はきられた。
画面を見ると、充電切れをしらせる文字が点滅し、事切れるように暗転した。
どこでスマホを拾ったのか、どこで電話を受けているのか、私は伝えなかった。
駅に忘れたという確信があるのか、GPS機能か。後者なら電話をかけてくる必要がない。
無人駅につぎの電車が来るまでしばらくかかる。
電車か、落とし主か、どちらが先にくるか。
怪談のはじまりみたいなできごとだった。
「こんばんは」