あしおとさん
おばけやしきにいこうか、とおじさんに誘われたとき、ぼくは遊園地を想像した。
行った先は、だれも住まなくなった団地だった。
近所にそういう場所があるのは知っていたけれど、不良のたまり場と聞いていたから、ぼくたちは近づこうともしなかったところだ。
昔からいるんだよ、あしおとさん、とおじさんは言った。
団地のD棟の東階段から入るんだ。
まるでぼくがまた別の人を連れてくるときのため、といった口調で、おじさんは教えtくれた。階段にかけられていたチェーンをまたいでぼくらは二階あがった。団地は四階建てだった。二階の部屋の玄関は鍵がかかっていなくて、あけると、外よりも重たい空気がこぼれてきた。
「怖い?」
おじさんに聞かれて、ぼくは、首をよこにふった。
カーテンのない部屋には、旧校舎の教室みたいだった。窓が汚れて外がくすんで見えるところも、空気のやわらかさを感じられるところも、似ていた。
畳があったんだけどね、とおじさんが言った。
ぼくのたっている隣の部屋は、畳がはずされて、土っぽい板しかなかった。
押入れは戸が閉められていた。
そこに、あしおとさんがいるのかと思った。
天井から、みっ、みっ、という音が聞こえてきた。
「ほら」とおじさんが笑った。
聞こえるだろう、と言って、おじさんは、畳があった場所で足を踏み鳴らした。
みっ、みっ。
こたえるように、天井から、みっ、みっ。
「行ってみようか、うえに」
おじさんは天井を指でさした。
「いやだ」
さすがにこわくなってぼくは首をよこにふった。
かえる、と言って歩き出したら、ぼくの真上で、みっ、みっ、みっ、と鳴った。
怒るみたいに、たくさんの足音が。
「ああ、そうだな、きょうは帰ろうか」とおじさんがいった。
みっ
みっ
みっ
みっ
みっ
突然、部屋が暗くなった。
振り返ると、窓の上から何本もの裸の足がぶらさがっていた。