走れ鉄棒

公園の鉄棒には、いっつもだれかがぶらさがっていました。
鉄棒は、ほんとは思いっきり走ってみたかったのですが、だれかがぶらさがっているので、走りたいのをじっと我慢していました。
ある日、ともだちのライオンに相談しました。
「ぼく、いちどでいいから好きなだけ走ってみたいな」
「じゃあ、わたしにまかせなさい」とライオンは言いました。
そうしてライオンは、鉄棒に近づいてくる人たちにガオーと吠えました。
みんな怖がって鉄棒に近づけません。
「さあ、きょうは鉄棒はおやすみだ。みんな帰った帰った!」
ライオンのおかげで、鉄棒にぶらさがる人がいなくなりました。
「ありがとうライオンさん。それじゃぼく、思いっきり走ってくるよ!」
あっというまに、鉄棒は公園を出ていきました。
うれしくて、うれしくて、大笑いしながら町のなかを走っていきました。
ライオンは、ちょっと心配でした。
それまで一度も公園を離れたことのない鉄棒が、ちゃんと帰ってこられるだろうか。
気が付くとライオンも走り出していました。
だけど鉄棒はとっても速くて、ライオンの足では追いつけそうにありません。
仕方なくライオンはタクシーをひろいました。
運転手さんに、急いで、飛ばして、とお願いしましたが、鉄棒はぐんぐん離れていきます。
そこでライオンは電車に乗り換えました。それでもおいつきません。
とうとうライオンは新幹線に乗りました。
鉄棒を見失わないように、窓からずっと外を見ていました。
それでも鉄棒のほうが速くって、とうとう新幹線も終点についてしまいました。
そこは陸地のはしっこで、その先には海しかありませんでした。
新幹線を降りたライオンがいっしょうけんめい走っていくと、海の前に鉄棒がいました。
やっと追いついたライオンも鉄棒の隣に座りました。
夕焼けが、とってもきれいでした。
「ありがとう、ライオンさん。こんなにきれいな景色を見られて、ぼく、うれしいな」
海の向こうに太陽が沈んでしまうと、鉄棒は「かえらなくちゃ」と言って、もと来た道を走っていきました。
「道、わかってる?」
ライオンがたずねるのも聞こえなかったのか、鉄棒はまた大笑いしながら走っていきました。
一晩かけてライオンが公園に戻ってくると、鉄棒はもといた場所にきちんと戻っていました。
「おはよう、ライオンさん、きのうはありがとう」
鉄棒はとっても元気でしたが、ライオンはへとへとにつかれていました。
「走りすぎて腰が痛いよ」とライオンは言いました。
「それはたいへんだ。ぼくにぶらさがって、腰をのばすといいですよ」
並んでいた人たちがライオンに順番をゆずってあげると、ライオンは鉄棒にぶらさがりました。
「ライオンさん、また走りに行きましょうね」と鉄棒が言うと、ライオンは「チーターを紹介するよ」と言いました。
その後、鉄棒は荷物を運ぶ仕事を始めました。
だけどお休みの日は、いまも公園で、たくさんの人をぶらさげてあげています。

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