象と鼻

ある朝、みんなの顔から、鼻が消えていました。
鼻の穴までなくなっていました。
においがわからなくなって、みんなこまりました。
口に入れてみるまで、ごはんがおいしいのかどうかわかりません。
ふんづけてしまってから、うんちに気がついたりします。
みんながこまっていると、どこからか子象屋さんがあらわれました。
子象に乗れば、においがわかるようになりますよ、と子象屋さんはいいました。
みんなすぐに子象を買いました。
頭の上に乗ると、子象の長い鼻をとおして、においがわかるようになりました。
みんな、ごはんをおいしく食べられるようになっておおよろこび。
外を歩くのだって、こわくありません。
子象に乗っていれば、自分の足でなにかをふんでしまうこともないからです。
だけど2年が過ぎたころ、またこまったことがおこりました。
象がおおきくなってきたのです。
乗り心地も悪くなってきました。
するとまた子象屋がやってきて、新しい子象に買い替えませんかといいました。
だけどみんな、2年いっしょにすごした象のことが大好きで、
いいえ、新しい子象は買いません、といいました。
みんな象から下りて、象と並んで暮らすようになったのです。
すると、ある朝、みんなの顔に鼻が戻っていました。
もうだれも象の鼻を頼りません。
象といっしょに外に出かけて、おんなじ花のにおいをかぐのが、しあわせでなりませんでした。

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