サイコロ

そのサイコロは、数字の「9」が好きでした。

だけど自分には「9」がありません。

そこでサイコロは海まででかけ、くじらに「9」をゆずってほしいとたのみました。
するとくじらはいいました。
「おいおい、まてまて、きみは6までしかないだろ。おれの9をゆずるのはやぶさかじゃないが、
6のつぎに9ってのは、どうにもスワリがわるい。7と8を見つけてきてからにしてくんな」

なるほど。それなら、まずは7を見つけなくちゃ。
そう考えて歩きだすと、お花畑でミツバチとであいました。
「ミツバチさん、ぼく、これから7をさがしに行くところなんですけど、
ちゃんと見つけることができたら、あなたの8をゆずってくれませんか」
するとミツバチはいいました。
「ぶんぶん、おいらのでよければゆずってやるが、おいらはなにをもらえるんだい、ぶんぶん」
「1から6までの好きな数字をあげるよ」とサイコロはこたえました。
「ぶんぶん、そしたらおいら、2がいいな、もっとずっと身軽に飛べそうだしな」

ミツバチと約束をかわしたサイコロは、バナナのおうちをめざしました。
だけど、バナナは留守でした。
バナナなら前にサイコロの「3」をかっこいいといっていたので、
それと交換に「7」をゆずってもらえると思っていたのに。

ほかに「7」を持っていそうな相手を、サイコロは考えました。
七輪。菜の花。ナナフシ。セブンイレブン。
だけど、みんなに断られました。
とぼとぼと歩いていると、向こうから女の子がやってきました。

「こんにちは、サイコロさん」
女の子は、かわいらしい声でいいました。
サイコロは、よわっちい声で「こんにちは」と返しました。
「どうしたの」と聞かれたので、サイコロは困っていることを話しました。

「わたし、7のあるとこ知ってるよ」と女の子はいいました。
「どこ? どこにあるの?」サイコロはびっくりしながらたずねました。
「夜になったら、またここに来て。そしたらおしえてあげる」

太陽が沈むのを待ってから、サイコロは女の子とあった丘の上に戻ってきました。
女の子が先についていました。
「7はどこにあるの?」
「ほら、あそこだよ」
女の子は夜空をゆびでさしました。
「北斗七星」と女の子はいいました。
そこにはななつの星がカギみたいな形にならんでいました。

「北斗七星さん、ぼくに7をゆずってください」
サイコロは大きな声でおねがいしました。
「どうしてだい」空から声が聞こえました。
「ぼく、9が好きなんです、だからくじらさんの9をゆずってほしいんだけど、
そのためには7と8がなくっちゃだめだって」
「7は好きじゃないのかい」
低く、ゆっくりとした声で、北斗七星はたずねました。

サイコロは悩みました。
ミツバチの「8」は黄色と茶色でかわいらしい形、それに元気にとびまわっていました。
いま、空にみあげる「7」は、きらきらとうつくしく、いつまでも見ていたくなるのです。

まよっているサイコロに、北斗七星は、こういいました。
「明日の夜に、返しにきてくれるね? それなら、かしてあげよう。ほかの数字もそうするんだよ」
「はい! ぼく、やくそく、まもれます」
すると空からきれいな「7」が、ひらひらとおりてきました。
かわりにサイコロは「1」を空に放りました。

夜が明けるとすぐに、サイコロはミツバチをたずねて「2」と「8」を交換しました。
それから海に向かって、くじらを呼びました。
「くじらさん、7と8をかりてきたよ。だから9をかしてください」
「いいとも、いいとも」
「もうひとつおねがいがあるんですけど」
「おやおや、なんだい?」
「9をかりるあいだ、ぼくの3をあずかってくれませんか」
「いいともいいとも」

こうして「4」から「9」を持った世にもめずらしいサイコロができあがったのです。
とうとう「9」を身につけたサイコロは、うれしくて、うれしくて、
いっしょについてきてくれた女の子におねがいして、なんども振ってもらいました。
どの数字が出ても、楽しくてしかたありません。
「9」はもちろん「7」も「8」もうれしいし、「4」も「5」も「6」もうれしいのです。

ゆうがたになって、サイコロはくじらさんに「9」を返しました。
それからミツバチに「8」を返しました。
女の子といっしょに、ゆうべの丘に戻って、北斗七星がのぼってくるのを待ちました。
とおくの山の向こうに北斗七星が顔を見せると、サイコロはいいました。
「ぼく、もういっかい7を出したいな」
「じゃあ、ころがしてあげるね」
女の子はサイコロをころんところがしました。
「7」が出ました。

そうして、もとの姿にもどったサイコロは、家までの道をころころところがりながら帰りました。
どの数字が出ても「7」にも「8」にも「9」にも負けないくらい、楽しく帰りました。

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