アイロンさん

アイロンさんは、しわしわのものが大嫌い。
だからなんでも、パリっときれいにしたがります。
幼稚園に着ていくシャツもパリっと。
ハンカチだって、ピシっと。
梅干だってつるっつるのボールみたいに。
ロールケーキもぐるんとほどいて、まったいらにします。

ある日、アイロンさんは空を見上げました。
雨は降っていないけど、朝からずっと曇り空。
隅から隅まで、白っぽい雲がひろがっています。
「んんん! 雲ってなんであんなにしわしわなのかしら!」

アイロンさんは友達のヘリコプターさんに頼んで、空まで運んでもらいました。
そして、どこまでも広がる雲を、さーっ、さーっ、さーっ、と伸ばしていきました。
地上からみんなが見守るなか、雲のしわ模様は、きれいに消えていったのです。

「さあ、これできれいさっぱり、気持ちがいいわ」
地上にもどってきたアイロンさんは、得意気に言いました。
みんなも、パリっとした曇り空をめずらしそうに見つめていました。

だけど、ブルドッグさんがこう言いました。
「しわがないと、雲だか空だからわかりゃしない」
つづけて、巻き寿司さんが怒ったように言いました。
「朝だか昼だか夕方だかも、わかんないよ」
すると、だんだんみんなも、おかしい、おかしいと言い出しました。
パリっとした雲なんて、気持ち悪い、という声が聞こえました。

アイロンさんは、泣き出しました。
みんなも、文句を言うのをやめました。
「よし、ぼくに考えがある!」とヘリコプターさんが言いました。

そうして、子供たちを雲の上まで連れていったのです。

「さあ、みんなおもいっきり遊んでいいよ」
ヘリコプターさんから降りた子供たちは、
なーんにもなくて広い雲の上でおもいっきり遊びまわりました。
地上から見上げていた大人たちはびっくり。
雲に、だんだん、しわができていくじゃありませんか。

それからというもの、アイロンさんはときどき雲をパリっとさせました。
ヘリコプターさんが子供を運んで、好きなだけ遊ばせました。
ときどき、夜になると、大人たちを連れていくこともありました。
たくさんの星と、おおきな月の光の下で、大人たちも好きなだけ遊んだそうです。

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