おおおにぎり
おじいさんが山道を歩いていると、大きなおにぎりを見つけました。
どのくらい大きいかというと、大人が10人がかりで食べてもまだまだ残りそうなくらい大きな、サンカクのおにぎりです。
なんだこれは。
そう思いながらおにぎりを見ていると、森から亀が出てきました。
亀はのっそり、のっそりと歩いておにぎりに近づくと、かぷり、とひとくち食べました。
亀はまた、のっそり、のっそりと森に入っていきました。
つぎに、ゴリラが森から出てきました。
のっし、のっしと歩いてきたゴリラは、おにぎりに、がぶり、とかじりつきました。もうひとく、がぶり。
お腹いっぱいになった様子のゴリラはまた、のっし、のっしと森に入っていきました。
なるほどなるほど、とおじいさんは思いました。
これは森の動物たちのごはんにちがいない、と。
すると森から、すべりだいが出てきました。
おじいさんはびっくりしました。
すべりだいも、おにぎりに近づくと、はむり、と一口食べました。
それからすべりだいは、すいー、すーい、と森に入っていきました。
なんだ、いまのは?
おじいさんは、びっくりしすぎて尻もちをついていました。
すると森から、線路が出てきました。
線路は、どひゅーん、と伸びてきたかと思うと、おにぎりをぐるりと囲んでしまい、反対側の森へ、どひゅーん、と入っていきました。
おにぎりは、ちょっとだけ減ったように見えました。
つぎに出てきたのは、おならでした。
ぷ、ぷ、ぷー、とやってきたおならは、おにぎりを、ぷりっ、と一口。
そしてまた、ぷ、ぴ、ぺー、と森に入っていきました。
つぎになにが出てくるのか、おじいさんはどきどきしながら待ちました。
しかし森からは、なんにも出てきません。
そのうち、頭の上からひょんひょんひょろろん、と、聞いたこともない音が降ってきました。
見上げてみると、空にUFOが浮かんでいました。
せっかく立ち上がろうとしていたおじいさんは、またもやびっくりして、尻もちをつきました。
くるくるまわるUFOから光がほわーんとのびてきて、その光の中を宇宙人が降りてきました。
「これはなんですか」と宇宙人はおにぎりを指して聞きました。
「お、おにぎりです」とおじいさんはこたえました。
「おにぎりってなんですか」と宇宙人。
「食べ物ですよ」とおじいさん。
「食べ物ですか。私も食べられますか?」
宇宙人の質問に、どう答えたらいいのか、おじいさんは悩みました。
宇宙人がいつもなにを食べているのか、知りません。
だから、食べていいのかどうか、わかりません。
でも、すべりだいや、線路や、おならまで、食べていったのです。
誰だって食べられるんじゃないかと思ったおじいさんは、こう言いました。
「たぶん、だいじょうぶですよ」
すると宇宙人はうれしそうな顔になって「じゃあ、いただきます」と言いました。
宇宙人は大きく、大きく、大きく口を開いて、たった一口で、ばくん!とおにぎりを食べてしまいました。
もぐもぐもぐもぐとよく噛んで、宇宙人の顔はだんだん嬉しそうになっていったのです。
「いやあ、これはおいしい、地球はこんなにおいしいんですね、大切にしなくちゃなあ」
宇宙人は、おじいさんに何度も何度もお礼を言ってから、UFOに戻っていきました。
UFOが空の彼方に飛んでいってしまうと、おじいさんは、ようやく落ち着きました。
きょうはいろんなものを見てしまった。
ひどくつかれてしまった。
そう思っておじいさんは、よっこらしょ、と立ち上がりました。
帰り道、おじいさんは、くよくよと考えました。
そんなにおいしいおにぎりなら、一口くらい食べればよかった。
考えると、なんだか悲しくなってきました。
亀も、ゴリラも、すべりだいも、線路も、おならも、宇宙人も、みんなおいしそうに食べていたのに。
家に帰ると、おじいさんはおばあさんに言いました。
「これからおにぎりをつくろうと思うんだけど、いっしょに食べるかい?」