うたいたいうた

むかしむかし、なんでもかんでもみんな歌っていました。
お鍋も、お皿も、窓も、雲も、枕も、シーツも、鏡も、ソファも、犬や猫も、みんなみんな歌っていました。
どの歌も、やさしくて、たのしくて、うっとりする歌でした。
歌いたくない気分のときは、しずかに口をつぐんでいれば、ほかのだれかの歌が聞こえてきたものです。
だけどあるとき、「フタ」がみんなの口をふさぎだしました。
そのフタは、もともとはお鍋のフタでした。
お鍋といっしょにゆかいな歌をうたっていたのに、フタはいつのまにか歌をやめ、みんなの口をふさいでまわるようになったのです。
どうしてそんな意地悪をするのさ、と雲が言いました。
するとフタは、うるさい! と怒って空に飛びあがり、雲の口にもフタをしました。
だんだん、歌が減っていきました。そうしてとうとう、みんな、歌をやめたのです。
ときどき、風がふいてきて、なにかの加減でちいさな音をたてると、みんな、あれ、と顔をあげます。
歌。
歌を、うたっていた。
そのことを思い出しかけ、だけど、歌いたい気持ちにならず、またすぐに忘れるのです。
では、どうすればいいでしょう?
ヒントは、夢です。
これから眠ったら、夢のなかで、あなたがうたいたい歌をうたってみましょう。
一晩では、もとにもどらないかもしれません。
しばらく続けてみると、なにかがかわるかもしれません。
フタがうたいたくなるような歌はなんでしょう?
それを考えながら、おやすみなさい。

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